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79歳女性・卵巣がんの終末期ケア|家族の葛藤と患者の尊厳を支えた鍼灸治療の9カ月

  • 15 時間前
  • 読了時間: 3分
穏やかな表情で治療を受ける高齢女性のイメージ写真。柔らかな光の中で安心した様子が伝わる。
支える手と、安心のぬくもり。

卵巣がんの疑いと、患者が抱えていた深い葛藤

79歳女性。20年来のお付き合いのある方で、「自分ががんになったら先生に面倒を見てほしい」と以前から話していた方でした。ある日、「卵巣がんを疑われた。どうしよう」と相談に来られました。

この方は、母・妹・夫をがんで看取り、その苦しみを間近で見てきた経験から、現代医学のがん治療に対する期待は薄く、「平穏に過ごして死ねればいい。医者にも近寄りたくない」と語りました。一方で娘さんたちは「治療を受けてほしい」と強く願い、家族間で葛藤が生まれていました。


家族の願いと本人の「穏やかに生きたい」という想い

彼女の性格とそれまでの経験から、現実逃避をしていることは分かっていました。まずは落ち着かせるために、心の内を丁寧に聞くことに徹しました。その夜は久しぶりにぐっすり眠れたそうで、翌日には気持ちが切り替わり、医師の診察を受ける決心がついたとのことでした。

診察の結果、「4日後に入院、1週間後に手術」と告げられ、本人も「まだ手術ができるだけましかもしれない」と前向きに受け止め、手術に踏み切りました。


手術・抗がん剤治療後の副作用と心の揺れ

しかし、がんは取り切れず、抗がん剤の副作用が強く、治療は断念。主治医から「これ以上の治療はない」と告げられ退院しました。

髪は抜け、手足のしびれが残り、食べるとゲップが出て苦しく、食欲も落ちて気弱になった状態で来院されました。ここから、私にとって二人目のターミナルケアが始まりました。


鍼灸による終末期ケアの開始

週1回のペースで治療を開始。

• 1診目:ゲップと手足のしびれに対する治療

• 2診目:按腹と胃の治療を追加

• 4診目:手のしびれが軽減。ゲップで食べられないと訴える

→「精神緊張による空気嚥下症だから、気にせず食べて大丈夫」と説明

• 5診目:頭皮刺激を追加。髪が戻り始める

• 6診目:食欲回復、髪の再生

• 7〜8診目:便秘に対して按腹を追加し改善


家族間の緊張がほどけた瞬間

15診目には娘さんが付き添いで来院。私はこう伝えました。

「何かをしてあげたい気持ちでいっぱいだと思うのですが、特別なことをしようとすると、お互いに気を遣いすぎて疲れてしまいます。いつも通りのやりとりが、いちばん安泰で幸せを感じられるものです。力を抜いて楽に行きましょう」と。

患者さんは深くうなずき、家族間の緊張が和らいだことで、表情にも落ち着きが戻りました。


9カ月間の経過と、患者が語った「しあわせ」

治療開始から4カ月が過ぎる頃には、

• 下剤の調整

• 首や腰背部の痛み

• 腹部の膨隆

などはあるものの、心身ともに安定していました。

治療中の雑談は「病気を忘れられる時間」となり、18診目には「しあわせだ」と語るほどに。

処方薬は抗不安薬・十全大補湯・睡眠導入剤、胃腸薬、便秘薬、降圧剤などで、痛み止めや抗がん剤は使用されていませんでした。


訪問看護へ移行し、治療を終えるまで

治療開始から9カ月、41診目のあと膀胱炎で発熱し1カ月入院。退院後は訪問看護へ移行する方針となり、当院での治療は終了しました。

開業鍼灸院で終末期ケアでできることは尽くせたのかなと安堵しました。

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